企業法務を取り扱う法務職は大企業から中小企業までなくてはならない存在です。
法務職が仕事を疎かにすると、企業が法律違反を犯すと企業の信用力が落ち、株主や取引先・従業員にまで悪い影響を及ぼす可能性もゼロではありません。そのため、企業が法律違反を起こさないためにも従業員一人一人のコンプライアンス意識の向上、マニュアルの作成、契約書のチェックなど企業を守るために法務職は活動します。
小さな企業でも個人情報の保護やハラスメント対策など法律を守るべきことが増えているので、企業法務全体の需要は高まっているといえるでしょう。
では、どんな人材が法務職に向いているのでしょうか?
法務職のやりがいやキャリアアップのためにおすすめな資格についても紹介します。
目次
法務職に向いている人の特徴5つ
では、法務職に向いている人について紹介します。
勉強が好きで学習意欲が高い
まず、法務職の仕事はたくさんの法律を覚え、覚えられないことであってもどこを調べれば良いかを理解していることが必要です。そのため、受動的に仕事をするのではなく、自分でどんどん勉強して知識を身に付けることが好きな人に向いているといえます。
特に法学部出身者以外は法律の解釈の仕方など戸惑うこともあるでしょうが、先輩社員に確認するなど積極的に吸収する姿勢が大切といえそうです。
細かい作業が得意
契約書類の作成は法務職にとってメインの仕事の一つです。取引先と何かトラブルがあった時には契約書の内容がすべてになるので、契約書の作成時や相手側から契約を求められた時には隅々まで内容を慎重に確認する必要があります。
正義感がある
法務職は正義感がある人に向いています。たとえば、企業の粉飾は企業全体でその事実を知りながら株価暴落や銀行から資金調達を受けられなくなることに恐れて決行されることがあります。
粉飾をすることで一時的に救われることもあるかもしれませんが、株主や取引先・融資を受ける銀行をだます行為であり絶対に許されるものではありません。また、嘘を嘘で塗り重ねていけば問題はどんどん大きくなり、収拾が付かなくなります。
最近では上場企業の場合はコーポレートガバナンスの観点から社外取締役を設置するなど不正を犯さない体制になっていますが、この意識は中小企業~中堅企業でも大切です。
立場が上の人に対しても正義感を持って交渉や説得できる人が法務職には向いています。
ロジカルに物事を考えられる
法務職には感情的に仕事をするのではなく、ロジカルな思考で仕事をすることが求められます。例えば何か文章を作成する時には、感情的な表現ではなく
- 「なぜそうしなくてはいけないのか」
- 「そうしなければどうなるか」など
順序だてて説明できると読む人にとってもわかりやすいです。特に法務職の仕事は難しい用語や表現も多く、一般的にわかりにくいことが多いので、なるべくシンプルに誰にとってもわかりやすく表現することが大切といえるでしょう。
変化への対応ができる
法務職の仕事は毎年同じ仕事をすることはまずありません。それは毎年のように行われる法改正や世間の動きなどを敏感にキャッチし、企業運営に取り入れていかなければいけないからです。
新聞やニュースなどで変化に対する情報をキャッチすることも大切ですが、それをいかにうまく社内に浸透させていくかを考え、上司にプレゼンをしたり従業員向けの研修・勉強会を開催したりということも求められます。
法務職の仕事内容は?
法務職の仕事は多岐に渡ります。代表的な仕事を下記で説明します。
契約書取引法務
契約書に関する仕事は法務職のメインの仕事です。新しい取引先と商取引の条件をすり合わせて契約書を作成することもありますし、銀行から融資を受ける場合などに契約書の内容を確認することもあります。
一度契約書を結ぶと、その内容に沿って裁判が行われるので、自社にとって不利すぎる条件はないか、納得できる条件なのかという点で確認することが大切です。
コーポレートガバナンスの強化
上場企業ではステークホルダーを守るためにコーポレートガバナンスの強化が求められています。企業が不正や粉飾をして発覚すれば、株価が暴落し投資家は大きな損失を抱えることになるからです。
投資家だけではなく、取引先や従業員などのステークホルダーに影響をかけるので、不正や粉飾をしない企業体制を築くのも法務職にとって大切な仕事です。
コンプライアンス対策
1人の従業員が情報漏洩をさせたり、ルール違反をしたりすることにより、企業の信頼を失墜するばかりではなく損害賠償の支払いを余儀なくされることもあります。
そのため、正社員だけではなく、企業で働く契約社員・派遣社員・パート・アルバイトすべてのコンプライアンス意識を高めることが求められるのです。具体的には定期的に勉強会を開催して禁止事項を浸透させたり、マニュアルを作成して誰がやっても間違えることなく手続きができる体制にしたりします。
紛争対応
取引先とトラブルが発生した場合には、法務職が中間に立ち問題解決に努めます。法務職だけで解決できない場合には顧問弁護士と連携を取り、裁判の準備をすることもあります。
また、紛争については企業にとってマイナスイメージになるので、経営陣にとっても気になる事象です。そのため、進捗状況をわかりやすく経営陣に説明することも紛争対応において求められます。
国際法務
海外展開している企業の場合、海外企業と契約を結び商売を始めることも多々あります。国際法務の場合は、営業員と商談の場へ足を運び一緒に交渉をすることもあるでしょう。
国が違えば法律も違うので、日本国内での契約以上に細かく条件をすり合わせる必要があるからです。国際法務を取り扱う場合には語学力の理解、商習慣の理解が求められます。
法務職の仕事のやりがいとは
法務職にはどのようなやりがいがあるかを説明します。
企業を守る存在になれる
法務職は企業を守れる存在になります。故意的な法律違反だけではなく、法律への認識不足から法律に抵触してしまう事象もあるでしょう。このような場合にも「知らなかった」だけでは済まず、企業のイメージが悪くなってしまうこともあります。
法務職がきちんと法律を理解して、企業運営を仕切ることができていれば、企業を健全に運営させる縁の下の力持ちになれます。
勉強した知識を存分に発揮できる
法学部・法科大学院出身者が法務職に就くことが多いですが、このような人が法務職になれば自分が勉強したことにより得た知識を発揮できます。
弁護士になるのは非常に難しいですが、法務職ならば資格を取得しなくても働くことができますし、一般企業の方が労働条件や福利厚生が良いことが多いです。
「法律に詳しい」「法律を学ぶのが楽しい」という人にとっては、法務職の仕事は天職といえるでしょう。
やる気があれば活躍しやすい
上記でも説明しましたが、コーポレートガバナンスなどの観点から法務人材が重宝されています。そのため、やる気があれば活躍しやすいですし、専門知識が評価されれば転職しやすくなるでしょう。
前職の仕事が評価されて、今までよりも好条件で転職活動ができれば自己肯定感も高まり、さらに法務職に対してやりがいを感じられるのではないでしょうか。
経営陣の期待に応えることができる
法律に関することは専門知識が多いので、経営陣も判断を任せてくれるケースが多いです。そのため、仕事ぶりが良かったり、企業が評価されたりすることがあれば、経営陣からの評価も高くなるでしょう。
CLOを目指せる可能性もある
最近では、法務職を突き詰めることでCLO(Chief Legal Office:最高法務責任者)と呼ばれる役職に配置されるケースも増えています。
仕事を頑張ることによりCFO(Chief Financial Officer)などと並ぶ経営のトップになれる役職が用意されていれば、更にやりがいを感じることができるでしょう。
所属する企業の規模で法務に求められる役割は異なる
法務職の仕事内容は所属する企業の規模により異なります。ベンチャー企業では、企業内のルールがまだ決まっていないことも多く、手続きのルールなど社内規定を決めるなど一から始める仕事が多いです。
中小規模の企業では法務部に配属されている人材が少ない場合が多くオールラウンドで活動する必要があるでしょう。また、大企業の場合は取引先との契約を専門にしたり、社内のコンプライアンス研修を担当したりと携わる業務の専門性がでてきます。
どんな企業に所属するとしても、求められるスキルに合わせた仕事ぶりをし、経験値を増やしていくことが大切といえそうです。
法務職は大変なのか
企業規模別の大変さ
法務職は、法律の解釈を間違えてはいけないプレッシャーが常にあります。大企業の場合は、チームで仕事をするなど一緒にチェックしてくれる人も多いでしょうが、ベンチャー企業や中小企業の場合には一人の責任で仕事を進めることもあるでしょう。
自分が法律の解釈を間違えたまま社内で勉強会をしてしまえば、企業全体が間違った知識で仕事を進めてしまいます。人数が少なく任されることが多い場合でも、必ず誰かにダブルチェックをしてもらうことが大切です。
毎年の法改正にアンテナを立てておく必要もある
また、法改正は毎年のようにあるので常に勉強しなくてはいけないのも法務職の大変なところです。日ごろからニュースや新聞には敏感に、企業運営にかかわる法改正はもれなくチェックすることが求められます。
他部署との調整が最も大変
さらに、他部署との調整などが大変だと感じることもあるでしょう。特に法務部の仕事は独立しており、若手社員であっても他部署部長や経営陣と対等に交渉しなくてはいけないケースも多いです。
このような場合に「忙しいから後にして」といわれても、急ぎで対応しなければいけないことなら説得して話し合いの時間を作ってもらわなければいけません。このような場合に難しさを感じることもあるでしょう。
法務職が取得すべき資格
最後に、法務職が取得すると有利になる資格について紹介します。
ビジネス実務法務検定
ビジネス実務法務検定はビジネス上で必要になる法律知識を正しく学ぶことを目的とした資格試験です。試験は1級~3級があり、法務部であれば2級以上の取得が求められます。
1級になると合格率も15%~20%と法務部門に所属する方および責任者レベルの知識の証明ができるので、キャリアアップを目指すのであれば挑戦してみる価値があります。
ビジネスコンプライアンス検定
ビジネスコンプライアンス検定は、コンプライアンス経営の根幹となる法律知識と実践的な価値判断基準を有する人材の育成を目的として作られた資格です。
特に従業員のコンプライアンス研修や勉強会をする仕事を担っている場合にはこの資格を取得しておくことをおすすめします。
英語の資格・検定
特に国際法務を取り扱う大企業や、海外進出を始めた中堅企業では英語で契約書を作ったり、商取引の交渉をしたりすることが増えてきます。TOEICなど、英語に関わる検定の点数が高ければ同じ法務部の中でも国際法務を任される人材になるでしょう。
また、現職で国際法務がなかったとしても英語の資格・検定により有利な条件で転職できる可能性があります。国際案件を取り扱う企業の方が年収水準も高いケースがありますので、キャリアアップを目指すのであればなるべく取得することをおすすめします。
まとめ
法務職の業務内容は多岐に渡り、法務職に求められる能力は他の職種に比べると高いといえます。まず、業務には法知識が必要で、法改正の情報などをアップデートしていかなければいけないので、能動的に勉強できる人が向いていると言えるでしょう。
また、「絶対に不正や間違いをしない」という正義感があり、ロジカルに物事を考えられる力も必要です。
専門知識を駆使して働くことから若手のうちから経営陣に頼られ、企業を守る存在になれるということも大きなやりがいになるのではないでしょうか。特に法学部・法科大学院出身者は自分の知識を活かすことができるシーンも多いでしょう。
法務職に有利となる資格もあるので、キャリアアップを目指すのであればこれらの資格を取得することもおすすめです。